2016年07月13日

恋をして 著:赤鈴

 俺には好きな人がいる。もう2年も片想いだ。
これまで俺はこと恋愛に関しては淡泊だった。告白して、フラれたら、その時点で諦めていた。
でも、今回は今までの恋愛とは少し違っていた。
告白をして、フラれても諦めることなんてできなかった。それは恐らく、俺が本気だからだろう。
俺は今年で25歳になったが、彼女なんてできたことがなかった。仕事でも、プライベートでも上手くいかず、ロクな人生ではなかった。
そんなロクでもない人生が彼女と出会ったことで少し、変わった。
1つだけ、本当に1つだけだけど、人生に楽しみができた。
 彼女の名前は立花 凜子。出会いは友人主催の合コンだった。最初は正直、見た目で惹かれた。
彼女はスタイルもよく、とても綺麗な人だった。当然、彼女は他の男の目を集めた。
しかし、話してみると、綺麗な外見とは裏腹に、とても肝の据わった、気の強い女性だということが分かり、他の男はいつの間にか他の女性にターゲットを変えていた。男はいつの時代も"女の子らしい"可愛い女性が好きなんだろう。
でも、俺は違っていた。
彼女と話せば話すほど、彼女のその魅力に惹かれていった。それは正直外見もそうだが、それ以上に彼女自身の中身にも惹かれていた。
俺はこれまで、ここまで気持ちいいほど思ったことをズバズバ言ってくれる女性と出会ったことがなかった。それが新鮮だったのかもしれない。
彼女とは別れ際に連絡先も交換した。それ以降、何度か連絡を取り合い、月に1回程度だが、会うようになった。しかし、それはあくまでも"友人"としてだった。
 最初に彼女に告白したのは彼女と出会って1年近く経った頃だった。
俺はいつものように彼女と会う約束をした。事前に少しオシャレな感じの店を予約し、2人で食事をした。その時に、俺は思い切って彼女に告白をした。
「凜子ちゃんと一緒にいると楽しいし、本当に一緒にいて楽なんよ。これからもずっと一緒にいたいって思う。時々怒ってもいいから、凜子ちゃんの笑顔をずっと隣で見ていたい。一緒に幸せになりたいって思うし、してあげたい。だから、その・・・付き合ってください!」
今まで生きてきて、これ以上ないくらい勇気を振り絞った。手の震えが止まらず、手汗がヤバイことになっているのが自分でも分かった。彼女は俺が言い終わるまで、じっと見つめてくれた。少し考え込んだ後、彼女は口を開いた。
「雄太がいい人なのはなんとなく感じてるし、実際そうなんだと思う。でも、正直雄太に対して恋愛感情はないんだ。ごめんなさい。気持ちだけ受け取っとく」
今まで生きてきて、これ以上ないくらい絶望感を、この時俺は感じていた。でも、それでも諦めることなんてできなかった。本気で彼女のことが好きだったから。
フラれたからといって、それで"はい、次!"なんて都合良く心の切り替えなんてできるはずもなかった。俺の中で彼女の存在はそれほどまでに大きく膨れ上がっていた―。
 それからも彼女はこれまで通り会ってくれた。"友人"として。そして、現在に至る、というわけだ。
彼女への想いはなくなるどころか、むしろ以前にも増して大きくなっていた。本当は毎日でも会いたいくらいだったが、いかんせん安月給な俺は月に1〜2回が限度だった。
一番辛いのは別れる時だ。また1ヶ月会えないのか、と思うと、胸が苦しくなった。夢から現実へと無理やり引き戻されるような、そんな感覚。
―もっと俺に金があれば
何度そう思ったか知れない。世の中、やはり最後は金なのだ。世界は世知辛く、欲望で溢れている。
俺は仕事にやりがいなんて感じたことはない。生活費の為もあるが、月に1回か、2回ある彼女と会う日に使う金の為に働いてる方が大きかった。金の為以外に働く意味なんて、これっぽっちも感じていなかった。
 そんな日々の中で、時々自信がなくなることがある。
―俺と彼女との関係は、このままでは一生"友人"のままなんじゃないか
と。そう思うと不安で夜も眠れず、苦しさで死にそうになり、自分の将来の希望が見えなくなっていた。
恋愛がこんなにも苦しくて、辛いものだなんて、俺は知らなかった。こんなにも辛いなら、いっそのこと恋なんてしなきゃよかった。
そんな風に思ってしまう日もあった。俺は恋に殺されかけていた。
 ある日、俺はいつものように彼女と会う約束をしていた。場所はどこにでもあるような居酒屋。
その日の夜、いつもの待ち合わせ場所で彼女を待っていると、人混みに紛れて彼女が現れた。
「オッス」
「おう」
軽く挨拶を交わし、2人で居酒屋へと向かった。夏ということもあり、夜でも蒸し暑く、汗ばんでしまう。
10分ほど歩き、目的地である居酒屋へと到着した。土曜日の夜、ということもあり、店内は客でごった返している。
「2人なんですけど、大丈夫ですか?」
「カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「俺はいいけど、凜子ちゃんは大丈夫?」
「私も別にカウンターでいいよ」
「じゃあ、カウンターで」
「ありがとうございます!では、こちらへどうぞ」
店員にカウンター席まで案内され、2人で腰をかける。すぐに冷たい水が出てきた。俺はそれをすぐにガブ飲みした。身体に沁みわたるようだ。
「暑いねぇ」
「うん、マジ暑い」
「あっ、そうだ。酒呑む前に渡す物があったんだ」
「なになに?なんかくれんの?」
「はい、これ」
俺は鞄から藍色の小箱を取り出し、彼女に開けて見せた。
「結婚しよ。やっぱ俺、諦めきれねぇんだわ、凜子ちゃんのこと」
「ここでそれ言う?」
「いいじゃん。庶民的で」
「もう、馬鹿なんじゃない。マジキモい。でも、もったいないから受け取ってあげる」
「なんてね、やっぱダメだよね・・・って、えっ?」
「えっ?」
「結婚してくれんの!?」
「仕方ないからしてあげる。それに、これ以上告白されるのもウザいしね」
「マジか!!ありがとう!よっしゃあぁぁー!!」
「声でかいって!他の人の迷惑でしょ!本当に馬鹿なんだから」
そう言いながらも、彼女は少し嬉しそうに笑っていた。この日、俺は彼女と朝まで呑んだ。
 あれから10年―。
今では子供にも恵まれ、彼女と幸せな家庭を築いている。過去の自分からは想像もできなかった未来が今、現実としてここにある。
もし今、タイムマシーンが目の前にあったら、過去に戻って自分に言いたい―
「お前には輝かしい未来が待っているんだ。だから、頑張って、踏ん張って生きろ!」
と。人間、どんなに辛く、暗い人生でも、少し、ほんの少し生きてみれば、思いのほか早い段階で明るい人生が待っていたりするものだ。俺は彼女と出会って、それを知ることができた。
彼女は今でも相変わらず気が強く、怒ると怖い。でも、時々見せてくれる彼女の笑顔が今でも俺に生きる活力を与えてくれている。俺は恋に生かされている。
俺は今でも彼女に恋をしている。そして、これからも―。
posted by UGPシナリオ班 at 21:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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